言葉の呪術と中道の綱領

 大学生のころ中野好夫という著名な辛口評論家が活躍していた。あるとき彼は総合雑誌の「中央公論」で、「現実的」という言葉の呪術性を論じた。読んだとき私は言葉のもつ意味の深さに衝撃を受け、いまでも正確に覚えている。彼はこの言葉の定義や解釈、使われ方を調べ、自己の見解の正当さとか優位性を、さりげなくきわめて巧妙に、しかも独善性をもって他者に押しつける一種の呪術とか擬制の言葉ではないか、と結論した。なぜ彼はこれを書いたか。太平洋戦争を経験するなかで、戦争反対論を非現実的な感情論、書生論、観念論として退け、国民に既成事実の肯定、追認を強要するために使用されたという。そして護符のようにこの言葉をはりつけておけば、当然のごとく導き出された結論であるかのような擬制的な説得力をもったと。その言葉が、いま再軍備や憲法改正をめぐる議論の沸騰のなかで再び使われている。このことに危機感を覚えてこの小論を書いた。ひるがえって、私は昨日、中道改革連合の綱領を読んだ。「現実的な外交・防衛政策と憲法改正論議の深化」と、ここにだけ「現実的」が登場する。選挙後も新党が続くようなら言葉の真意を確かめたい。

コメント

このブログの人気の投稿

ゼミレポートは生涯の宝

老いて輝くもの、人間

春はカーソンの贈り物