藤沢周平に魅せられて

 時代小説家・藤沢周平の人生をたどり、その作品の魅力を探った後藤正治の『文品』(ぶんぴん)という新刊本が、昨日の道新に紹介されていた。「文品」は初めて接した言葉だが、「端正で品位のあるすぐれた文章の意味」だそうだ。早速注文した。私のように高度成長期から安定成長、バブル期に青壮年期を過ごした人間にとって、藤沢周平や松本清張、司馬遼太郎などは忘れがたい作家だ。松本の作品の多くは、時代の背景や特性を色濃く反映させ、かつ反権力を多分に滲ませた社会派推理小説。高校生時代の『ゼロの焦点』『点と線』以来のファンだった。司馬の『竜馬がゆく』『坂の上の雲』は、扱うテーマと展開の壮大さに魅力があり、また『街道をゆく』『この国のかたち』などで示した独特の文明観もおもしろい。けれども私は藤沢がいちばん好きだった。藤沢は松本や司馬と少し違って、社会的な発言はしない時代小説一筋の作家。けれども『蝉しぐれ』が象徴しているように、逆風にあっても誇りを失わず、耐えながら普通に生きる下級武士など、武家社会の傍流で生きるものの悲哀を透徹した文で描いた。経済は発展しても心の疲弊がすすんだ、高度成長期の人間の心象と重ねたのか。その意味で、藤沢は強い想いで、静かに「現代を語る」社会派作家だったと思う。

 

コメント

このブログの人気の投稿

ゼミレポートは生涯の宝

老いて輝くもの、人間

春はカーソンの贈り物