連動型事業別予算のすすめ(自治日報2020年1月3・10合併号より転載)

 

連動型事業別予算のすすめ

 議会はまもなく次年度予算の審議の時期を迎える。昨秋、私たちの議会技術研究会が開催した新人議員向けの財政講座で講義するために、私自身の再学習という意味から、いくつかの自治体について首長が法律にもとづいて議会に提出する予算・決算書と事務事業評価書(主要な施策の成果)を調べてみた。主眼は、現年度と過年度の事業内容がこれらの政策情報から読みとれるか、ということだった。

歳出予算書は「款項目節」と「説明欄」から成り立ち、このうち議会が議決するのは款・項という、いわば政策の大分類・中分類、目は財源の区分で、これらからは実施する事務事業(以下「事業」)名とその内容はわからない。節は地方自治法施行規則に定めた28の歳出区分を項単位に総括したもので、ここにも事業は示されない。そこで予算書で事業がわかるのは説明欄だけということになるが、その記載内容は自治体によって実に区々である。

私は事業内容がわかる予算書であるためには、説明欄を自主的に活用して、すべての実施事業とともに、それぞれの事業ごとに該当する節の歳出区分とその金額を明記する、いわゆる事業別予算への組み替えが不可欠と考えているが、この事業別予算の観点から自治体の予算書をみると、およそ3つのタイプに分けることができるように思う。

    旧来型款項目予算

 これは説明欄で目的別の款項目別予算を事業別に組み替えていない予算で、なかには事業名をもうしわけ程度にしか書いていないものもある。また、新規事業についてのみ別途説明資料を作成しているものの、基本的には実施予定事業と歳出内容が読みとれない予算書。

    単独型事業別予算

 事業別予算に組み替え、旧来型にくらべれば大きく前進しているが、現段階ではそこに止まっていて、予算執行後の事業評価や決算、あるいは次年度予算に結びつけるしくみになっていないタイプ。

    連動型事業別予算

 もっとも進化したと思われるタイプで、事業別予算に組み替えるとともに、全事業に付した事業番号を事業評価や決算に連動させることで事業の流れを一貫性をもって管理する、一望性ある政策情報の作成を念頭につくった予算書。

各タイプの分布状況は私にはわからないが、一番多いタイプは①で、②は増えつつあるものの③のレベルに到達している自治体は少ないと推測される。➂のタイプとして高く評価されているものに国分寺市の試みがある。同市の予算書、決算書、評価書をならべて共通番号化された事業をみれば、すべての実施事業の流れが労せずしてわかる。

もちろん予算を事業別化するだけでは、事業内容の詳細まではわからない。そこで重要な意義をもつのが政策評価書(同市では「事務報告書」)である。これには各事業の歳出歳入の内訳、事業の分類(自治事務・法定受託事務)、事業の目的、実施状況および成果、担当課長による評価などが記載されている。市はこの評価書を、決算を議会の認定に付す際の「主要な施策の成果」(地方自治法第233条⑤)の説明書類としている。

これの公表の時期が大事である。決算に際しての成果表を実施事業の一覧表を示す程度ですませ、また、詳しい評価書をつくっても公表が遅くて議会の決算や予算の審議に役立たないケースも多い。国分寺市のように八月に公表されれば、議会・議員はこの政策情報をベースに過年度の事業評価をふまえた決算審議ができ、また、時間的ゆとりをもって次年度の予算審議に臨むことができる。

同市の事業別予算のしくみづくりに貢献された元部長の小口進一氏は、政策がだれの目にもわかりやすくなる、市民が参加する事業の見直しや総合計画の策定などの際に共通データとして活用できる、行政の政策説明が簡略・正確になり、議会の予算・決算審議もわかりやすくなる、職員にとっては異動の際の事務引継ぎが簡略化され、他方で政策コスト意識が高まって政策手法の革新が促される、と利点をあげている(小口『政策転換のシナリオ』公人の友社)。

事業別予算への組み替えは難しい作業を要しない。款項目予算は個々の事業を目的別に積み上げたものだから、その基になっている事業名と金額を説明欄に書き移せばいいだけである。くわえて、事業ごとの職員数と職員費、さらに総合計画事業との関連の有無を記載すれば、事業別予算としての精度は上がり、ひいては予算、決算の審議に不可欠の熟度の高い事業評価書の作成・公開にも連動させることができる。

自治体運営において情報公開、説明責任、政策評価などが重きをなすにつれ、政策文書が多様に作成されるようになった。けれども政策がわかる文書としては系統的に整理されていない。政策は文書で表現されることで、多様な解釈・評価・批判の対象となり、また政策を決めた主体を市民がコントロールする基準になる。それだけに議会は自らの政策活動の質を高めるためにも、各地のすぐれた事例を参考にしながら、行政の各種政策文書の有用性を点検し、そのうえで連動型事業別予算の実現を行政と協議すべきではないか。

自治体の財政環境は今後さらに厳しくなる。だから健全財政維持の範囲内でしか新規事業はできない。これを見極めるには事業別にした債務の償還額と財源内訳を年度別一覧表にして示す必要がある。また新年度予算事業の95%以上は継続事業である。スクラップなくしてビルドはできない。とすれば決算や予算の審議にはスクラップした事業の一覧表も欠かせないだろう。これらの問題をくめて、役に立つ政策情報のあり方を検討してほしい。

 

追記 連動型事業別予算に関してしばしば問い合わせがありますので転載しました。自治日報に掲載したこの小論は、北海道自治研究201912月号に掲載した拙稿「何をみれば政策がわかるかー連動型事業別予算のすすめ」の概要です。詳細をご覧になりたい方はインターネットで検索すればダウンロードできます。以下は目次です。

何をみれば政策がわかるか―連動型事業別予算のすすめ

じはじめに

1 政策とは何かを考える

(1)     松下圭一の「政策」の定義

(2)     地方自治法の規定

2 国分寺市の事業別予算

(1)     事業別予算・評価・決算の連動

(2)     事業別予算の意義―小口進一氏の所説から

3 予算をめぐる3つのタイプ

(1)     旧来型・単独型・連動型

(2)     札幌市の予算関連書類をみて

4 連動型への進化のために

(1)     組み替えは難しくない

(2)     自議会基本条例の実践として

(3)     情報公開の作成・公開の新段階

おわりに

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