正副議長の立候補制を阻む壁

 

2025429日投稿 自治日報20211月1・8日合併号より転載

正副議長の立候補制を阻む壁

 自治体議会の正副議長の選挙に際して、その職に立候補を志願する議員にたいして所信表明の機会を設ける、いわゆる「立候補制」を取り入れる議会が増加している。いうまでもなく立候補制は、正副議長の選出過程を透明化して市民に分かりやすくするとともに、志ある候補者が所信を述べることで、議会運営について正副議長としての決意・抱負・方針・論点などを披瀝する意味においても、近年の議会改革の流れに即した試みである。

 立候補制に決定版があるわけではないが、栗山町議会の方式は大いに参考になる。同議会は、立候補制を①議会基本条例に明記し、②議員は自由に志願でき、③公開の本会議場で所信表明をおこない、④法にもとづく選挙方法で投票し、⑤一連の過程を記録し公表する。これらを「正副議長志願者の所信表明実施要領」に定め、同時に、所信表明の有無を志願者の自由意思にゆだね、かつ志願者以外の議員にたいする投票も有効としている。

 現在、ひろい意味での立候補制は、およそ360市、285町村の議会が試みている。ひろい意味とは、上述の「栗山5原則」ほど熟度は高くないが、非公式・非公開の場で候補者の所信表明を実施している議会もふくめているからである。せっかく志願者が所信を表明する機会を設けるのであれば、公式・公開の場でおこなうほうが市民のより高い評価が得られると思うのだが、議会関係者の話を聞けば、そこには大手をふって実施に踏み込めない壁がある。

 それは法律解釈と会議規則の2つの壁である。ではこれはクリアできないものなのか順次考えてみよう。まず地方自治法は正副議長の選挙において準用する公職選挙法の条項をあげている。それは第46条第1項(候補者1名の記載)、同第4項(無記名投票)、第47条(点字投票)、第48条(代理投票)、第68条(無効投票)、第95条(最多数者の当選、4分の1以上の得票)で、準用する公職選挙法の条項はこれがすべてである。

 現に議会は立候補制をふくめてこれを準用して正副議長を選出している。ところが「公選法の準用に関し、立候補に関する86条が準用されていないので、議長、副議長の選挙において、特定の議員が立候補すること及び議長適任者を推薦する演説を行うことは許されない。」(井上源三編集『最新地方自治法講座⑤議会』)という総務官僚の言説があり、これに呪縛されて立候補制の導入に躊躇する議会が多数見受けられる。

 地方自治法が準用すると規定していない条項を準用されていないというのはいささか奇妙な論法だが、仮にこの説のように立候補制が法令違反ないし適性を欠くなら、総務大臣は地方自治法にもとづいて「是正の要求」をするはずだ。だがその事実はない。また政府は、総理大臣安倍晋三名で「第86条が準用されていないからといって、立候補する意思のある者にその旨を議会において表明させることが否定されるものではない。」と、上記の官僚解釈を打ち消している(櫻井周衆議院議員の文書質問への2018430日付答弁書)。真っ当な政府見解である。以上から実は第1の壁はもともと杞憂にすぎなかったのである。

2の壁はどうか。多くの議会の会議規則は「選挙及び表決時の発言制限」として「選挙及び表決の宣告後、議員は、発言を求めることはできない。ただし、選挙及び表決の方法についての発言は、この限りではない。」と規定している。会議規則が全国画一の表現になるのは、標準会議規則に倣っているからだが、それはおくとして、議会関係者は正副議長選挙で所信表明をおこなうことはこの規定に抵触するのではないかと疑念を抱いている。

栗山町議会会議規則も同じ表現である。だが同議会は、選挙の宣告前に別の議事日程として所信表明を実施し、会議規則と齟齬をきたさない工夫をしている。元来、標準会議規則は法でも規則そのものでもなく、全国議長会が各議会の便宜のためにひな型として示しているにすぎない。したがって、各議会の自主判断で、「正副議長の選挙において志願者が所信を表明する機会を設ける場合はこの限りではない。」と書き加えれば済むことでもある。

以上の検討から立候補制にかかる2つの問題はいまや阻害要因とはいえない。これらは自治体法務のあり方に直結する問題でもある。分権改革によって、すべての自治体事務に条例制定権が及ぶようになり、また国の省庁の通達も廃止されて、自治体には国から自立した法務能力の涵養が強く求められている。議会もまたしかり。そこで今日的な自治体法務の諸原則を多治見市の市政基本条例(自治基本条例)を借りてあらためて確認しておきたい。

その要諦は次の6点である。①条例などの自主立法を積極的におこなうこと、②要綱を必要に応じて整備し公開すること、③法令を市の責任に応じて解釈し積極的に運用すること、④提訴、応訴など訴訟に的確に対応すること、⑤国に法令の制定、改正、廃止を積極的に提言すること、⑥市民の活動に法務の側面から情報や技術の提供などの支援をおこうこと。条例はじめ多数の法の定立にかかわる議会にとっても重要な法務原則である。

ここでは紙幅の制約から詳述できなかったが、正副議長の選挙における立候補制の意義を熟慮し、その制度としての熟度を高めて、議会改革をさらに前進させてほしい。 

(*ラベル「移ろう季節」2025429日に関連記事 神原)

 

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