教養なければただの貧困

庭のスノードロップ、フクジュソウ、クロッカスが日毎に存在感を増す。カタクリやエゾエンゴサクも落ち葉を持ち上げ、昨日はチオノドクサ(4)が紫の可憐な花をのぞかせた。これら春の草花は故郷の谷洋太郎・和子夫妻の農場からきたもの。谷一家は戦後まもなくからわが故郷の高台に入植して乳牛を飼ってきた。一貫して牛糞と堆肥の有機肥料にだけ頼った牧草で健康な牛を育てた。家屋も農場も自然の一部であるかのように周囲の風景に溶け込み、牛舎はタヌキも出入り自由で、子ダヌキは子猫と一緒に牛乳をすすっていた。牛が日除けにする牧場中央の大きな林は山菜の宝庫。タラの芽、ウド、ギョウジャニンニク、ユキノシタ、落葉キノコ、などなど。春と秋の山菜の季節、和子さんの同級生たちが訪ねてきては旧交を温め採取を楽しんでいた。口数の少ない洋太郎さんが晩年のあるとき私に訥々といった。「もっと上の学校に行きたかった」、「自然を好んで生きてきたが、教養がないとただの貧困になる」と。谷さんの心に長く宿ってきた思いだったに違いない。夫妻は子どもの教育に力を入れ2人の兄妹を大学に進学させた。わが家の春の庭の花はありし日の谷夫妻をも映し出してくれる。

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