新人議員の17条の心得(追録版1)
新人議員の17条の心得(追録版1)
神原 勝(議会技術研究会顧問)
議会は「言論の府」とか「討論のヒロバ」といわれます。これは住民の選挙によって選ばれた議員が議論(議員と住民、議員と議員、議員と長)することによって、それぞれの自治体の解決すべき問題の処理をめぐる政策の論点や争点を明確にすることを意味しています。政策をめぐって論点・争点が明らかにされなければよい結論は導き出せません。
この課題に応えるために議員は言論・討論に強くならなければなりません。そのために議員は自己研鑽に努めるわけですが、その努力の結果は、新人議員のときの心構えの如何が大きく影響すると思われます。そこで以下に、けっして上から目線ではなく、自分が新人議員ならどうするか、といった思いで17項目を考えてみました。
初めはもっと項目数が多かったのですが、私の所属する議会技術研究会で、聖徳太子の17条の憲法になぞらえて17項目にしてはどうかとアドバイスをもらいました。そのようなゴロ合わせで聖徳太子さんを引き合いに出して申しわけありませんでしたが、項目数を17に整理しました。釈迦に説法といわれる部分が多々あるとは思いますが、参考にしていただければ幸いです。
2023年7月29日 神原 勝(北海道大学名誉教授、議会技術研究会顧問)
この「17条の心得」は2023年7月29日に議会技術研究会が主催した新人議員講座の際におまけの資料として参加者に配布したものですが、予想外の好評で後日、削除した部分も元に戻してはどうかという要望をいただきました。そこで「17条の心得」という最初のタイトルはそのままにして13項目を復元・追録し、条項も通し番号に付け替えました(追録したのは3,5、7~11、18、19、22、24、25、30の各条)。
追加しようと思うと、正直いって、触れたい問題が次々に浮かんできます。例えば、会派の問題は、とくに政令指定都市や都道府県などの大きな議会では素通りできない今日の議会改革上の大きな課題ですが、この「17条の心得」で触れると中途半端になりますので、これら大規模議会の特殊な問題については別途考えることにして除外しています。
「条」を付したのは一種の遊び心からで、特別な意味はありません。論理的に並べているわけでもありません。多少の関係性を考えて並べた程度です。その意味では、どの条をとり出して読まれてもいいのですが、なにせ同じ地方自治の土俵のなかの問題ですから、お互いに深い関係があることはいうまでもありません。そのことを意識してお目通しいただければなお幸いです。
今後も関係者のみなさんから、ご批判をふくめてご意見をいただいて内容を充実させるよう努めてみます。その成果があれば次回の新人議員講座で追録版2をお届けします。
2025年2月20日 神原 勝
新人議員の17条の心得(追録版1)
第1条 選挙で当選しても議員ではない
当選証書を手にすることは、議員の「資格」を得ることで議員活動の出発点です。議員になってしまえば、その後4年間は、最小限の務めを果たすだけでなんとか過ごすことはできるでしょう。しかし、これでは住民の代表として仕事をしたことにはならないわけで、議員になった意味もありません。
したがって、立候補したときの初心を忘れずに、目的意識をもって積極的に活動し、経験を積んでいかなければなりません。つまり当選して議員に「なった」のではなく、これから努力を重ねて議員に「なる」ということです。こうした意識をしっかりもち続けることによって、議員としての品格や力量が培われ、結果として住民の信頼感が高まっていくのではないでしょうか。
第2条 「知らない」は新人議員の特権
普通の住民が議員に当選して新人議員になったとき、自治体や議会の制度や運営、議会における議員活動のルールなどについて、知らないこと、わからないことがたくさん出てくるのは当然です。したがって、知らないことわらないことを、関係者に尋ねることは大いに必要なことで、なにも恥ずかしいことではないし、躊躇すべきことでもありません。
しかし、2期目以降になると様子が違ってきます。尋ねられる方は「そんなことも知らないのか」、尋ねる方は「聞くのは恥ずかしい」と思って、知らないことわからないことを放置しがちになります。そこで、知らないこと、わからないことを、どんなに初歩的なことであっても聞くことができるのは新人議員の「特権」だと考えて、その特権を積極的にいかすべきです。この1期目の過ごし方はその後の議員としての成長に大きな影響を及ぼします。
第3条 危機対応のマニュアルを読む
住民の生命に直結する地震、風水害、大雪、原発事故、火災、火山噴火などなどのさまざまな災害が、それも激甚・複合・広域のかたちでいつ襲ってくるかわかりません。これらのいわゆる危機管理の問題への対応は自治体政策の第一級の課題です。発生した場合には、住民自身や各種の行政機関が行動を開始します。当然、住民に密接し、住民を代表する議会・議員もまたその外にはおかれないでしょう。
危機に直面したとき、議員は人間の心理として家族の安否を気遣って馳せ参じたくなります。けれども議員はそれに耐えなければなりません。かといって住民に寄り添う強い責任意識に駆られてむやみに行動すれば、かえって負の結果を生むこともあります。ではどうすればよいか。難しい問題ですが、災害はいつ発生するかわかりません。議員になったらまず行政や議会が定めている対応マニュアルを精読し、以後は普段から自らとるべき行動について思考訓練していく必要があります。
第4条 議員と住民のミゾを解消しよう
議員になる前に普通の住民として見えていた議会像と、議員になってから見えてくる議会像は大きく異なってきます。議会にはさまざまな決まりがあり、また自分には直接関係のないこと、関心のない議案や問題でも、しっかり向き合っていかなければならないからです。議員になってはじめてこのことがわかります。それまで見ていた議会の景色が変わります。好きなことだけで議員は務まりません。
そこで、議員は、議員になる前と後のこのギャップを、自分の努力で調整できますが、住民は元の状態のままです。こうして時間がたつと議員と住民の議会像に大きな開きができて、ひいては住民の議員不信・議会不信の原因になっていきます。個々の政策の正否や自分の議員活動だけでなく、議会という自治機構の姿を住民に伝える、いわば、議員と住民の相互学習を通して、ともに自治体の政治に習熟していく視点を忘れてはなりません。「地方自治は民主主義の学校」といわれる所以です。そのなかでもとりわけ議会は民主主義の最良の学校というべきでしょう。
第5条 議会が変われば自治体が変わる
自治体は地域に発生する公共的な諸問題を政策によって解決するために設けられた地域の政府です。この政府を運営する主体は、主権者である政治主体としての住民と、地方自治の制度上特別な役割が与えられている制度主体としての長、議員、職員の4者です。戦後とくに1970年代以降の地方自治のなかで、最初に住民、次いで長、職員の順であたかも玉突きのように各主体は自己改革の波にさらされました。こうして自治体の総体的な力量は高まったのですが、議員と議会の改革は遅れました。
中央集権のもとで自治体の存在意義が正当に評価されなかったこと、この集権制と結びついた長の権力が強かったこと、二元代表制が正しく理解されなかったことなど、議会の評価を押し下げた理由はたくさんあります。けれども2000年代に入って議会改革に火がつき、それが他の主体にも影響を及ぼすことによって「議会が変われば自治体が変わる」という、自治体再構築の期待が高まってきました。現在の議員・議会はこのような自治体改革の歴史のなかで新たな課題を背負って仕事をしています。
第6条 勉強する議員は選挙に弱いか
知識や情報は耳から入り、知らないことも耳を通して気づかされます。これを「耳学問」といいますが、これで物事がわかった気になってはいけません。耳学問は入り口としては大事なものですが不正確です。たしかに「モノ知り」にはなるかもしれませんが、いかんせん深みがありません。法律でも条例でも議会のルールでも耳にした大事な話は文書になっている原典(元)をしっかり確かめる習慣をつけましょう。
耳学問では議会での一般質問などの文章も書けません。そこで短いものであっても日ごろから文章を書く習慣をつけましょう。そうすることで文章は確実に上達しますし、書くためにはいろいろなことを調べなければなりませんから、書物を読む習慣もついていきます。こうして耳学問で終わらせない習慣を身につければ、しっかり根拠を持った政策の議論や質問ができるようになります。昔から「勉強する議員は選挙に弱い」という誤った言説があります。真実はその逆です。ぜひ実証してください。
第7条 「地方自治は民主主義の学校」
イギリスの政治学者で自由党の下院議員でもあったジェームス・ブライス(James Bryce)は、『近代民主政治』(1921年)という有名な本のなかで「地方自治は民主主義の最良の学校であり、その成功の最良の保証人である」と述べています。地方自治の現代的な意義を端的に述べた、地方自治の一丁目一番地のような有名な言葉ですから、中学校や高等学校の教科書で知っている方もおられると思います。少しむかしの邦訳で読みにくさはありますが岩波書店から文庫本として出版されています。
日本では1960年代の初めに、今日の地方自治につながる自治体改革がはじまりますが、それを支えたのは「地域民主主義の確立」の思想で、憲法がうたう国民主権を日常的に活性化させるために、人々の生活の場である身近な地域を基礎に民主主義を確立しようというものでした。それから60年以上の歳月が流れました。私たちが暮らす地域や自治体は民主主義の学校にふさわしい成長をとげたでしょうか。これからみなさんの議会活動がはじまります。いつも心のなかで問い返してください。
第8条 地方自治はどうして必要なのか
「国のレベルで完全な民主主義が成立したら地方自治は不要になる」とは古くからある言説です。本当にそうでしょうか。民主政治には規模の問題があります。聖徳太子でも一度に7人の声しか聴くことはできませんでした。1億人の国民が暮らす大きな国で直接国民の声を聴く民主政治は不可能です。だから小さな政治の単位(自治体)を置いて、そこに分権する必要が生じてきます。
次は地域特性の問題です。地域には固有の文化や風土があり、また解決すべき課題もまちまちです。全国画一の法律やナショナル・ミニマムだけでは地域の問題に対処できません。さらに、こうして設置される自治体は市民と地域に密接しているから、多様な政策の発生源あるいは批判源となり、これがなければ国は国としてなすべき政策課題を認識することができません。さらには、市民が自治体の運営に参加することによって政治習熟のチャンスがひろがります。これが前条の民主政治の学校理論です。
第9条 集権制は国政を不健全にする
地方自治がなければ国の政治も不全になるという認識は20世紀の初頭のころから語られてきました。中央集権が強くなると国民を代表する国会は地方に関して細かな目配りができなくなって官僚まかせになり、その結果、民主政治が後退する。国は国本来の仕事をするうえで欠かせない地方的な知識や情報を失うことになるから的確な政策が立案できない。自治体が政策に失敗しても負の影響は狭い範囲にとどまるが、国が失敗すれば損失は国全体に及ぶなどがその理由です。
これに関連して、日本では政治学者の松下圭一が集権のもたらす3つの負の問題点を提起しています。①国が行う全国画一の法律や政策はそれぞれの地域の個性に対応できない、②国の政策は省庁タテ割りでつくられるので総合性が求められる自治体のまちづくりを阻害する、③自治体は地域に発生する課題に迅速に対応できるが国の対策は常に後遅れ、時代遅れになる、という指摘です。さらには、これらの結果生じる4番目の問題として、それらによる税の無駄遣いを追加してもよいでしょう。
第10条 補完性の原理とは何だろうか
市民と政府の基本的な関係を的確に表現した言葉に「補完性の原理」があります。自由・平等・独立の市民は個人や家族、あるいは自由にグループなどをつくって、まず市民レベルで問題を解決します。そしてそこで解決できない問題を社会全体の問題として解決するために、基礎となる自治体政府をつくり、そこでも解決できない問題のために広域自治体、次いで国政府、さらに国際機構(準政府)を設立します。このように市民から発して多段階の政府をつくって順次問題解決を補完していく原理が補完性の原理です。
EUでは地方自治を国際的の保障する多国間条約「ヨーロッパ地方自治憲章」(1988年発効)がありますが、この憲章に流れる思想が「補完性の原理」です。国連でもこれをモデルに世界地方自治憲章の制定をめざしています。こうして補完性の原理はグローバルスタンダートになろうとしていますが、日本では政治学者の松下圭一が、『市民自治の憲法理論』(岩波新書、1975年)で「上昇型政治」と表現してこの考えを明確に述べています。『自治体は変わるか』(同、1999年)とあわせて一読をすすめます。
第11条 国と自治体は対等・協力の関係
2000年に大規模な分権改革がおこなわれ、それまでの中央集権の制度が大きく変わりました。この改革によって国と自治体の関係は、「上下・主従から対等・協力の関係」に変化したのです。この分権改革で中央集権の象徴であった機関委任事務(国の事務を自治体の長などに委任して行わせる制度で議会は関与できない)や通達が廃止され、国民を代表しない国の行政による自治体統制は縮小されました。
けれども、この改革では財政分権や新たな事務分権が実施されないなど積み残しが多かったことから「未完の分権改革」といわれ、今後に多くの課題を持ち越しています。それでも2000年改革によって自治体が行う事務はすべて「自治体の事務」(第20条参照)になって条例制定権が及ぶなど議会の権限が大幅に拡大しました。国の省庁が発する通知などは「参考意見」にすぎなくなり、その分自治体の自主判断とその説明責任が重くなりました。議会はその変化をしっかり認識して行政に向きあうことが大切です。
第12条 憲法と地方自治法は必ず読もう
地方自治に関する法令はたくさんあり、個々の政策に関係する法令はもっとたくさんあります。しかし個々の政策法はさておいて、地方自治の枠組みを定めている憲法と地方自治法はまず読んでおく必要があります。憲法は国と自治体という、対等な2種類の政府の基本を定めています。そのうちの地方政府に関しては「第8章 地方自治」(第92条から第95条まで)に書いています。
この憲法の規定にもとづいて地方自治の枠組みや運用の基本を定めているのが地方自治法です。長い法律ですがひと通り目を通しておきましょう。ただし、情報公開、住民参加、総合計画、政策評価など今日の自治体運営にとって不可欠の重要事項に関しては何にも規定していません。だから自治体は独自に自治基本条例や議会基本条例を制定する必要があることも理解しましょう。
第13条 自治・議会基本条例を活用する
自治体運営の基本方針を定めたのが「わが町の憲法」といわれる自治基本条例であり、とくに二元代表制(選挙された長と議会が緊張関係に立って自治体を運営する制度)の運営に関しては議会基本条例が制定されています。前者は全国で400以上、後者は900以上の自治体が制定しています。1970年代以降の全国の自治体改革の成果を基にした今日の自治体運営の標準装備です。
これらに記されている地方自治の理念と現実の自治体運営の間には大きな開きがあります。それだけに議会や議員が執行機関を監視する際の基準として大きな意味をもち、また、議会で政策を議論する際にも大いに役立ちます。ともに北海道発で全国にひろがった条例です。議会基本条例については、自分の議会の条例のみならず、栗山町、福島町、芽室町の優れた条例をぜひ目を通してください。
第14条 慣例・先例はまず疑ってみよう
議員になった日から議会の「慣例」「先例」に縛られます。長い年月をかけて積み上げられた議会運営のシキタリです。法律・政令や条例・規則を根拠にその運用を具体化した事例もあれば、そうではないものもあります。古いものもたくさんあります。成文化していない慣例もあります。多くの議会は、条例・規則などの例規集の他に、大小さまざまですが運用・事例集を冊子にしています。
なかには、例えば、委員会で請願を提出した住民に主旨説明させるが休憩時間に行なって記録に残さないとか、議会の傍聴住民に資料を配布しないなど、住民には理解しにくい取り決めがたくさんあります。これらは過去の議会が何かの必要からはじめた知恵なのですが、住民目線でおかしなものは直さないと、自治基本条例や議会基本条例などで議会と議員の理念を謳っても、現実の議会はそれとはかけ離れた旧態依然の状態が続きます。
第15条 先進議会の改革動向に目配りを
「神々は細部に宿りたまう」という言葉があります。歴史をつくる最初の営為は常に社会の細部で、あるいはどこかの自治体の小さな出来事としてはじまります。そしてそこに普遍的な意義があれば、時間とともに各地にひろがって、新しい歴史をつくります。環境政策、福祉政策、子育て政策などはその典型ですし、自治基本条例も議会基本条例もみなそうして発展してきました。
だから、議員を含めて地方自治にたずさわる者は、社会や自治体の先進的な動きに目配りすることが大事です。目配りを怠れば取り残されていきます。議会改革についていえば、改革課題はほとんど出そろって、実行をめぐって先進議会・居眠り議会・寝たきり議会に3分化しています。「井の中の蛙」であってはなりません。先進議会の優れた営為の発見に日々努め、自分の自治体がどのレベルにあるか見定めていて改革に努めましょう。あなたの議会は先進議会かもしれません。
第16条 複数の先進議会を定点観測する
心得の15条と関係します。議会改革の個別的な先進事例を全国各地の議会の営為から拾い集める習慣を身につけることは、自分の議会の水準を評価するうえで、また、改革を考えるうえで貴重なヒントを得ることができますが、それとともに特定の議会を丸ごと観察することも大事です。あらかじめ複数の先進議会をいくつか決めておいて、その動向を追っていけばより効果的です。
例えば、町村なら道内の栗山町、福島町・芽室町、別海町の議会、全国ワイドで市では会津若松市、飯田市の議会、都道府県なら三重県議会は評価が高いです。どこも議会基本条例を軸に、その実効性を高めるために積極的に議会改革を続けています。これらに学ばない手はありません。そしてやがてはみなさんの議会が他の議会から定点観測されるような先進議会に成長してほしいと思います。
第17条 政策は科学では決められない
かつて医学者の加藤周一は「恋愛や戦争は科学の対象にならない。科学者が科学で証明できると信じるなら彼は永遠に結婚できないだろう」といい、政治学者の松下圭一も「政策は恋愛やスポーツと同じで科学によって決定できない」といいました。要するに、政策は個人・集団・党派の価値判断からくる主観的な好き嫌いの問題だから、科学的に正しさが証明できる政策などは存在しないということです。それでは何が政策に正当性を与えるのでしょうか。それは合意形成手続きの確かさです。
政策決定は合意を必要とするから科学にはならないのですが、議会はこの合意形成手続の最たるものです。議会という「討論のヒロバ」を通して、住民と議員、議員と議員、議員と長などが互いに議論を尽くして結論を導く、そのための手続の確かさが政策に正当性を与えます。この過程では第18条とともに第19条でいうような政策3文書をはじめとする政策情報の作成と公開が不可欠ですが、この政策情報の作成や事後の政策研究は科学化することができます。
第18条 過程責任の大切さを知っておく
前条と深く関係します。政治の世界では「結果責任」という言葉がよく使われます。「結果よければすべてよし」ともいわれます。けれども政策はよい結果を生むとはかぎらないし、時には取り返しのつかない大きな失敗を招くこともあります。そして失敗して損失が生じたとき政策責任者が責任をとるとはいっても住民、国民が被った負の影響を除去することは容易なことではありません。そこで大切なことは結果責任にもまして「過程責任」を重んじて政策を決定し執行するということです。
今日の政策活動には、政策課題の発見から選択・企画・決定・実行・評価を経て次なる課題の発見にいたるまで、住民参加や情報公開を組み入れた、いわば政策循環(PDCA)に即応した合意形成システムの確立と着実な実行が求められます。これが過程責任の考え方であり、これを基調に政治行政を動かしていくのが民主政治で議会自身もそのあり方が問われます。過程責任重んじても失敗はなくなりませんが、それを最小限にとどめるとともに、失敗した場合の原因の究明や修復が容易になります。
第19条 政策3文書に徹底してこだわる
住民自治を推進する基本として政策情報の作成と公開が強調されて数十年を経ながら、自治体のおこなう事業が一望できる政策情報の作成と公開はごく少数の自治体を除けばいまだに稚拙あるいは不十分な状態です。政策情報の基本は年度予算書、総合計画書、政策評価書に3つですが、これらを見ても住民はもちろん、長・議員・職員をふくめて誰の目にも自分の自治体が行う事業は簡単には見えてきません。
これでは議会・議員は真っ当な政策活動はできません。そこで予算は実施する事業を明記した事業別予算にし、その事業については総合計画に記載した事業を予算化することを原則とし、政策評価も予算・計画で示した事業と連結(できれば統一番号を付して)して行なうことが肝心です。こうした政策方式を「連動型事業別予算」と名づけますが、このわかりやすい政策情報を実現して住民・議員・長・職員で共有すれば、政策をめぐる議論は一段と効果があがります。あなたの自治体はどんな状況ですか。
第20条 政策を議論するときは確認せよ
行政が議員に議案などを説明するとき、国の方針(法律、処理基準、補助金などを含めて)があって、変更できないかのような説明をし、聞いた方もそうなのかと納得してしまいます。そこでちょっと待った!「その議案に関してどんな国の縛りがありますか」と聞いてみる。自治体が行なう仕事は3種類に分かれます。①法定受託事務、②法定自治事務、③法定外自治事務です。
法定受託事務とは本来国が処理するにふさわしい事務で法律の強い縛りがある事務、法定自治事務は法律の定めはあるが実施の内容については自治体の自由度が高い事務、法定外自治事務とは国とはまったく関係なく自治体が自主的に判断して行なう事務です。この3つのどれに属するかによって、自治体の裁量の幅が大きく異なり、したがって議論の方向や内容も大きく変わってきます。
第21条 結びの部分から書く方法もある
文章を書くことは大変なことです。一般質問の質問内容を文書にまとめる作業には血ヘドを吐く思いがする、などと議員から聞いたことがあります。私もいまだに文章を書くことには苦労しています。説得的な文章にするには、論理が飛躍しないように「起承転結」をふまえなければならないことはわかっていても、出だしの1行がなかなか決まらないのです。それは、書きはじめの段階で本論で書くようないろいろな思いが交錯するからです。
そこでいっそのこと「結」の部分を最初に書いてみてはどうでしょうか。そうすると、あとはこの結びに至るプロセスを書けばいいわけだから、気持ちが楽になり、書き出しの「起」の部分も容易に決まります。そしてこの「起」が決ると、あとは「承」「転」とつなげばいいわけで、思いのほか筆が進みます。あなたが「あとがき」から書いても、読む人は「はしがき」から読んでくれます。
第22条 議員間討議が議会の力をつくる
議会は多数の議員によって構成されます。その意味で代表性という点では1人の長よりも優れています。しかし、議会はそうした議員が集まっているだけの集合機関ではなく、多様な考えや政策志向をもった議員が議論しあって、「議会として」の意思や政策をつくりだす議事機関(憲法第93条)でなければなりません。個々の議員が単独で行政と向き合うだけでは、議会本来の使命である行政監視や政策提言は実現しませんし、議員間討議のない議会は憲法の「議事」の精神にも反します。
そのために、「住民の意思」を汲んで個々の議員が「議員の意思」をもち、その議員が議論しあって「議会の意思」をつくりだすという認識を共有し、常任委員会における議員間討議と文書による政策提言のまとめ、あるいは一般質問の内容を補強する議員間討議、答弁内容の議会としての事後追跡などが重要です。選挙を考えれば議員同士は競争の関係にありますが、いずれはプラスの効果が自分に返ってくる議員間討議を活性化させ、「競争の議会」から「協奏の議会」へと進化させてほしいものです。
第23条 答弁側の落としどころに要注意
議員が質問書を書くとき、質問の主旨や事実確認などについて、担当の行政職員とやりとりをします。そのとき一般的な傾向として、行政側は議員を次のように誘導します。
① 答弁内容が、長などトップの判断に委ねなければならないような質問はしてほしくない。自分あるいは所属の部課かぎりの対処にとどめたい。それが職員、部課長の能力として評価される。
② 答弁づくりに際して、複数の部課にまたがって調整を要するような質問はできるだけさせたくない。調整に時間と労力が必要になり面倒だ。
③
答弁で質問者の意向を受容する場合は、できるだけ既存の政策や制度のなかに組み込んで、若干の色をつけて今後の検討課題にする程度にとどめたい。新規の政策・制度はやりたくない。
答弁者が質問内容に反対する場合は別だが、そうでないときは③を落としどころに誘導します。受容したように見せて何もしなくて済むからです。あなたがこんな場面に遭遇したらどうしますか。
第24条 「だけ情報」には踊らされない
一般質問後行政の担当者が「ご質問の主旨を受けとめ実施することになりました。まず先生にご報告します」とやってくることがしばしばあります。質問者は当然、質問の効果があったと喜びます。本当に実現するのなら大変結構です。けれども、そこで終わらないことが大事です。「その情報(または文書)は公式の情報ですか、担当部署で確認していますか、公開してよいですか、他の議員にも同じことをしていますか」と確かめてください。
「もちろんです」と答えが返ってくればOKです。けれども「先生にだけ」と、あいまいな耳打ち情報の場合もあります。これを「だけ情報」といいます。本来ならば、答弁内容の事後処理報告は議会のシステムとして全議員に対して公平に行うべきで、それを試験的に試みる議会もあります。「だけ情報」に心をくすぐられずに勇気をもって向き合えば、やがては「行政の掌で踊らない、懐柔できない、筋を通す議員」のイメージがつくられます。
第25条 時には手ぶらで登壇してみよう
ある識者はかつて北海道議会を「学芸会」と揶揄しました。一般質問、代表質問する議員側と答弁する知事側が質問と答弁の内容を、事前に一字一句すり合わせてつくった作文を本会場の演壇で棒読みする慣行を学芸会に例えて皮肉ったのです。この答弁調整による質問と答弁は、生身の人間性を感じさせない、要するに有権者には面白くない、形骸化したセレモニー議会の代名詞で、そんなことなら経費や労力をかけて議会を開く必要もなく、質問書と答弁書をHPで公開すればすむことです。
ある高校生は「議会は学芸会にすらなっていない。小中学生はセリフの台本を舞台にもち込まないから」ともっと辛辣です。過度な答弁調整はとくに大規模な議会に多くみられますが、小規模な議会では答弁者に反問権を認めた一問一答方式の議会が増えています。1議員が質問する時間はたかだか20から30分です。内容を諳んじて時には手ぶらで登壇し、議場にさわやかな雰囲気と人間味のある情景を醸してほしいものです。一度チャレンジしてみませんか。よき先例の先駆けになるかもしれません。
第26条 物事を考えるときの4つの視点
周囲を眺めながら散歩しているとき、この森は素敵なので長く維持してほしい(保全)、公園の金網フェンスは子どもたちが鳥かごのなかで遊んでいるみたいなので生垣にしたい(修正)、道端に山積の廃棄物は取り除きたい(除去)、遊歩道のところどころにベンチがほしい(新設)などと思いをめぐらせます。保全・修正・除去・新設の4つの視点はまちを眺めるときの大事な視点です。
このような視点で住民が気軽に感想を出し合えばまちづくりの課題が出そろいます。議会で政策の議論をするときもこの視点は有効です。継続の政策、新規の政策を問わず、議会とくに常任委員会でこの易しい視点で誰もが気軽に議論することができます。また議論の論点や政策の課題も明確になります。自治体は地域社会の問題を解決するために存在し、政策はその問題解決の方法なのだから、この4つの視点をみんなが忘れずに活用すれば、課題はあまねく出そろって、かつ肩の力を抜いて効果的な議論をすることができます。
第27条 地図で膨らむわが町のイメージ
議員は全体の代表ですが、実際は特定の地域や産業・職業・職域などの代表として選出される場合が多いのが現実です。だから行くところも限られて町の全体がなかなか見えません。町の全図(地図)を壁に貼りましょう。ここに議員活動として訪ねたところ、政策上の課題があるところなどについて大まかに印をつけて、毎日眺めていると自分の活動を含めて町のイメージが湧いてきます。
むかしから政策づくりにおいても地図の効用がうたわれてきました(「地域生活環境指標」など)。例えば交通事故も発生場所・事故の種類を地図に落とせば、一覧表で見るよりは原因の究明や対策が容易になります。公園や子どもの遊び場なども誘致圏で示せば、設置場所の優先順位が合理的に決められます。地図で視覚に訴える政策情報の価値はなお大きなものがあると思います。
第28条 制度化と運動化の視点をもって
「制度」を国語辞典で引くと「団体などを運営していくための仕組」と書いてあります。そうすると情報公開も市民参加も予算・計画も政策評価も、自治体という団体を運営していくための大事な制度ということになります。この制度が健全でなければ住民の声を反映する自治体の政治行政にはなりません。したがっていい制度をつくる、すなわち制度化とその実行の検証が議会の大事な仕事になります。
一方、この制度を使って住民や議会は政策を掲げて問題解決のために運動します。これを「制度の運動化」といいます。そのうち住民や議会は制度の不備や欠陥に気づいて直そうとします。これを「運動の制度化」といいます。こうして制度化と運動化を繰り返しながら民主主義は螺旋状に向上していきます。民主主義は制度と運動の2要素から成ります。健全な政策は健全な制度にしか宿れません。
第29条 「政治家に若き天才なし」の戒
若者のなり手不足が懸念されますが、概して議会は年齢や世代が異なる多数の議員によって構成されます。そして議員としての正統性の根拠は選挙にあるわけですから、すべての議員は性別・年齢・世代・期数に関係なくみな平等です。議員が住民の代表ということは、世代の代表でもあるから、若い議員が先輩議員に伍して堂々と意見を述べることは必要なことであり、大いに推奨されるべきことです。
しかし、政治家が物事を判断するとき、人生から得た知見と経験の多寡と深浅が大いに影響します。やはり年配の議員や期数の多い議員にはそれに起因する一日の長があります。「政治家に若き天才なし」といわれる所以です。優れた若き議員でもすべてに的確に対応できるわけではありません。たとえば、人の生死にかかるとっさの判断などはその典型です。先輩議員の知恵や経験を批判的に摂取できる議員であってほしいと思います。
第30条 世界一仕事をする気概をもって
自治体議員の定数や報酬のあり方をめぐって議論が絶えません。人口減少や財政逼迫などを反映した住民の感情がその背景にあります。議論をすることは大変よいことです。けれども2つのことを忘れないでほしい。第1は日本の自治体の仕事量です。国際的な比較は難しいけれど、国をふくめた租税総額の65%を自治体が使うのは世界一、しかも経済規模を考慮すれば、日本の自治体がいかにたくさん仕事をする自治体か想像に難くありません。
その仕事のすべてに議会はかかわります。とすれば第2に、議員と議会はそれを担うにふさわしい力量をもたなければなりません。この課題に応えるために2006年からはじまった議会改革は現在はまだその途上です。自治体改革の歴史を画するこの議会改革を今後も継続し、その議員・議会の気概が住民に理解されるとき、定数や報酬をめぐる議論の流れも変わります。世界一仕事をする議会の気概をもって議会改革を大胆に進めましょう。
付録 どんなことでも気軽に尋ねよう
議会技術研究会は、議会が、真に住民を代表する議会として、政策を議論・提案し、行政を監視する、力をもった議会に成長することをめざして、さまざまな議会改革の方策を議論しています。現実の議会をあるべき議会に近づけるために、議会の現場に足を置いて「技術」を磨こうというわけです。現在は、道内の160名余の市町村議員が会員になっています。誰でも会員になれ会費は無料です。
どんなことでも気軽に相談してください。まず共同代表の西科純(080-6090-6252、元芽室町議会事務局長)か渡邉三省(080-6091-5108、札幌大学講師)がお聞きし、必要に応じて、運営委員の辻道雅宣(元北海道地方自治研究所理事)、阿部忠彦(元千歳市職員)、顧問の松山哲男(元登別市議会議員)、神原勝(北海道大学名誉教授)がお手伝いします。
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